スター食材を育てる
実際に栽培現場を見ると、キノコ栽培のハードルの高さがわかる。そのため、世界でもこのような生産工場は日本と台湾にしかない。
工場長の梁詠智はそのカギをこう語る。「台湾のキノコ培地に使われる木屑の多くは広葉樹と雑木のものですが、私たちは日本から柳杉の原木をコンテナで輸入しています。直径15~30センチ、長さ20メートルのもので、これを粉砕して6ヶ月にわたって発酵させてから、培地に用います」と言う。Jinlifeでは台湾の柳杉も使ってみたが、これではホンシメジは育たなかったという。
Jinlifeのヒラタケシメジは日本から技術移転を受け、2017年5月に生産を開始したが、1年以上をかけて原材料や生産工程を調整してようやく量産にこぎつけた。ホンシメジの方は、早くから安定的に生産できている。
Jinlifeはクリーンルームで栽培するだけでなく、会社全体に5S(整理、整頓、清掃、清潔、しつけ)の概念を取り入れて環境を整えている。李正群‧副総経理はこう話す。「オフィスから生産現場まで、これほど清潔な企業はなかなかないでしょう。運搬用のパレットの隙間まできれいにしています。空気中にはさまざまな雑菌があり、人間には影響がなくても、キノコには深刻な危害が及ぶ可能性があるのです」
ホンシメジは、清潔好きであるだけでなく、「えんどう豆の上に寝たお姫様」のように繊細で敏感だ。
例えば「発生室」は霧が立ち込めた状態にしなければならない。「技術移転を受けた際、ここの湿度管理について、日本側は『一定の距離から目視』して自分の手が見えないほどの濃い霧を発生させること、と言いました。私たちは、直接湿度の数値を教えてくれればいいのに、と思ったものです」と工場長の梁詠智は言う。ところが実際に作業をしてみると、湿度のデータは設定値に達しているのに、それでも乾きすぎていてホンシメジの表面に亀裂が入ってしまったのである。果たして目視で判断するしかなく、水分が足りない時はすぐに噴霧する必要がある。逆に水分が多すぎると、それも「水傷」の原因になる。理想的な湿気を維持してこそ、しっとりしたホンシメジができるのである。
温度も1℃でも誤差があると形に影響する。李正群によると、天然のキノコはそれぞれ形が異なるが、商品化するからには、ある程度は大きさや形がそろっていなければならない。そのためには温度と湿度の管理が極めて重要なのだ。
「まるまると太っている」ものが良いホンシメジとされ、細長いものや、横幅が広いものは不良品とされる。そこでいかに不良率を下げて、まるまるとしたホンシメジを育てるかが、彼らにとって最大の課題となる。輸送の過程や販売店でも常に冷蔵する必要がある。
希少なホンシメジは市場でも人気がある。2019年に全台湾の全聯スーパーに卸し始め、今では月に12万パック、約14トンを生産しているが、それでも供給が間に合わないほどで、外国市場が2割を占めている。Jinlifeはすでに、アメリカ、カナダ、日本、ニュージーランド、オーストラリアの「有機食品同等性認証」を取得しており、今後はニュージーランドとオーストラリアの市場を開拓して、台湾のキノコを世界に広めていく。
山珍生物科技(Jinlife)では現場に5S活動を取り入れてキノコ栽培の環境を整えている。