現代の「食神」
「大きな店は客を欺き、大きな客は店を欺く」と言う。朱振藩はまさに、店に入ると厨房が大慌てするような超VIPである。誰もが朱のような人生を送れればと羨むばかりである。
女性の弟子しか取らないことについて、朱は『隨園食単』を著した袁牧も弟子は女性しか取らなかったという。『隨縁食単』とは、清の文人、袁牧が残した一大料理書である。
法務部法制司副司長の林嚞慧は、体型も変わらず、コレステロール値も正常な朱を見て「私もああなりたい」と羨む。
数十年来、「両岸三地(台湾・中国大陸・香港マカオ)の食文化の巨匠」「食聖」「現代の食神」などと称えられてきたが、彼は自分の影響力の大きさを確信していなかった。それが3年前、法務部調査局を退職し、頻繁に中国大陸を訪れるようになって、ようやく実感するようになった。
中華の食文化の精髄は台湾にあり、台湾で中華の食文化に最も通じているのが朱振藩である。だが、法務部調査局勤務という敏感な立場だったため、在任中は中国大陸へ赴くことは許されず、退職してようやく行けるようになった。
大陸の入国審査では「大陸は初めてですか?旅の目的は?」と聞かれ、「おいしいものを食べに来ました」と答えた。入国審査官は笑顔でスタンプを押してくれたが、彼の名声やバックグラウンドは大陸ではとっくに知られている。
この3年、大陸を訪れるたびに、まるでスターのように記者に取り囲まれる。交通大学の教授からは人相を見てほしいと頼まれ、白馬寺では書を求められた。洛陽の真不同飯店には4人の台湾人の書があるが、3人は政治家のもので、民間人は朱振藩だけである。
大陸のマスメディアは彼を「台湾の奇人」と封じる。見た目は堅物の公務員、話し方は朴訥だが、実は食文化の生き字引で、その知識の奥深さは計り知れないというのである。
彼は女優のスー・チーとも3回食事をしたことがあり、香港の女性映画監督メイベル・チャンは朱振藩と食事で同席した後、「バベットの晩餐会」の華人バージョンを制作したいと考えるようになったという。
永和の自宅の書斎で許景淳のCD「玫瑰人生」をかけ、山西省の苦蕎茶をすすり、16世紀にフランスの教会で作られた薬用酒を口にしながら、同級生に羨ましがられていることや最近の出来事などをゆっくりと話す。ひけらかしているのか謙虚なのか、どちらでもないのか判別できない。
そう。誰もが羨む朱振藩の人生だが、どんなに羨ましくても彼と同じ人生を歩むことは誰にもできない。この食文化の大家はさまざまな不思議な因縁があって誕生したのである。