専門家だけでなく
常設展は展示期間が長いので、展示物の保存のために注意が必要だ。それらを美術館のように展示するのも難しい。どのように展示すればいいか、台博館の頭を悩ませた。
何度も話し合いを重ねた結果、「発現台湾」では、標本を壁に並べたり展示物の前に立ち入り禁止のラインを引いたりといったやり方はせず、床に立たせたり、天井から吊るすなどアクティブな陳列となるよう工夫をこらした。広い空間のあちこちに、ミカドキジやタイワンツキノワグマ、タイワンジカ、センザンコウなどの標本が展示され、まるで互いに対話をしたり、ガラスの向こうから飛び出して来そうな感じがする。
標本には、採集者の習慣が残っていることがあり、時代を越えて彼らの存在が感じられる。貝類を採集した堀川安市は、貝殻に採集地点を記す習慣があった。白い貝殻に朱色の文字で「高雄産」「基隆産」などと書かれている。
かつて台湾にやって来た多くの博物学者は、採集だけでなく、見聞を文字として記した。それらは収蔵品の価値を証明する有力な証拠となっている。台博館で2015年に収蔵品の点検を行ったところ、1929年に当時の日本円2円で購入したタイヤル族の貝殻細工のアンクレットは、当時の購入記録に残された日本語のカタカナ表記から、歴史的人物であるモーナ・ルダオのものであることがわかった。崇高な勇士を象徴するアンクレットが、今回ついにモーナ・ルダオの遺品として展示されることにつながった。
博物学では、標本採集とともに重要なのが、図や写真、文字で細かな情報を残すことだ。たとえ現代でも、解剖図を用いたり、標本に欠けている部分を補足するなど、絵図の作成が行われ、そのためにスケッチのプロが雇われるほどだ。
絵の才のある博物学者も多い。川上瀧彌は採集した植物標本を自分でスケッチした。彼の作品『花』は今でも芸術品として通用する。また、陳奇禄は、先住民の器物やパイワン族のトーテムを生き生きと描いて残した。
博物学者が残したこれらの記録や出版物も、今回の展覧では標本とともに展示され、研究者としての彼らの丁寧な仕事ぶりが窺える。従来の展覧ではそれらに長い説明を付して紹介することが多かったが、「発現台湾」では、わかりやすいようにイラストを多用することで、専門家だけでなく子供や一般の人にも親しみやすく、楽しめるようにした。
李子寧は、文化や歴史、自然、芸術などさまざまな要素を結び付けた展覧会が、多くの人の好奇心をかきたてることを願っている。