大地の記憶を作り、守る
人口の流出は鳳林にとって切迫した課題であり、青少年を故郷に留め、また呼び戻すために地域の人々は努力している。
初夏に「田んぼを見つけた」という運動会が開かれた。地元の農家から水田を借りて運動会の会場とし、田んぼの中でラグビーや徒競走、綱引などを楽しむイベントだ。主催機関はなく、公的部門からの補助金もなく、ネットで情報を流しただけだが、今年は1000人近くが集まった。
「泥の中に入ったことのある子供は大地への愛情を持ち、将来故郷に帰ってくる」という地域の女性の言葉から、李美玲はこのイベントを思いついた。子供たちに田んぼの中で泥だらけになる経験をさせれば、彼らは大地の温度や強い日差しの下での笑顔などを記憶にとどめ、将来の帰郷につながるのではないかと期待する。
もう一つのユニークなイベントは、毎年旧暦7月に行われる「煙楼迷路" S鬼夜行祭」である。ホラー映画の「貞子」に扮したアシスタントが林田村の古井戸に立つ写真をフェイスブックにアップすると大きな反響があり、李美玲はこのテーマで青少年を惹きつけられると考えた。そこで、さまざまな妖怪や幽霊に扮して煙楼(かつて煙草の葉を乾燥させるために用いられた建物)のある通りをパレードし、煙楼をお化け屋敷にする計画を立てた。このイベントは大きな話題になり、小さな鳳林に3000人余りが集まった。お化け屋敷は、深夜12時を過ぎても人が絶えなかった。
「鬼月」と呼ばれ、祖先や無縁仏の霊があの世から戻ってくるとされる旧暦7月にこうしたイベントを行なうのはタブーとされるため、李美玲はさまざまな手を打った。イベントの前日には無縁仏を供養する儀式を行ない、また付近の廟にはお守りを配ってもらった。
彼女は、若者たちにまずは鳳林へ来てもらうことが大切だと考える。そして彼らに煙楼の歴史を語り、彼らの人生と地方に結びつきが生まれてこそ文化遺産を守れると考えるからだ。
鳳林は常にゆっくりと、着実に前進している。この小さな町の「スロー」な魅力は、ここで暮らし、五感で体験してこそ味わうことができる。鍾順龍は、川辺で石を積み上げてほしいと言う。心を静めて一つ一つの石を観察し、バランスを考えながら積み上げる。こうしてゆっくりと気持ちを落ち着かせてこそ、スローシティの真の意義が感じられるのである。
劉青松(上)は仲間たちを率い、手染めのスカーフを通して鳳林の美しさを伝える。
高齢になった両親を世話するために帰省した徐明堂が作った鳥居農場。
落花生ブランド「美好花生」を打ち出した鍾順龍・梁郁倫夫妻と7カ月の娘。
花東縦谷に位置する小さな町。ここに滞在してこそスローシティの美しい風景を味わうことができる。