クロースアップのマジック
グランドキャニオンのフライングや万里の長城通過、自由の女神の消失で知られるアメリカの一流マジシャン、デビッド・カッパーフィールドのようなイリュージョンとは異なり、蔡之棟のマジックは難度最高のクロースアップで、すべては手の届く範囲のテーブルで行われる。中でもトランプとコインが一般的アイテムである。
シャッフルして上下の向きも不揃いのトランプを手にして、蔡之棟が「人生にはいろいろありますが、諦めなければ何事も円満に行きます。このトランプもそうです」と指を弾くや、数字順にマークがそろったトランプが現れる。
さらに観客からコインを借り、手に転がすと、襟口から姿を現し、マイクの傍に移動する。観客の目の前なのに、どうなっているのだろう。
これほどのテクニックに練達するには少なくとも3年以上が必要で、単純で目立つコインとなると、人の目を晦ますのは難しい。
蔡之棟が優勝したマジックは、無論そんなに単純なものではないが、残念ながら今後のコンテストのために詳細を明らかにはできない。「私は神秘タイプのマジシャンなので、情報は少ない方がいいのです」と彼は話す。
概略を言うと、Marking Stickerはシールを用いたカードマジックで、シールに書いたものがトランプに移るというのがポイントである。
このトランプに貼るシールは、自分のクリニックの基礎化粧品包装材で「普通のシールだと剥がす時にトランプが一緒にはがれるので、特注品のシールを使っています」と言う。
何事も完璧主義の彼は、コンテストではテンポが取れなかったというが、終ってみると、誰もが「どうやったんだ」「やり方を見たか?」と驚きの声が上がっていた。
多くのマジックは音楽と組み合せ、流れるように不思議な技を繰り出すが、玄人ならちょっと見ればタネが知れる。しかし、蔡之棟のマジックはマジシャンたちも不思議がるのである。普通の人を騙すのはともかく、マジシャンを騙すのは容易なことではなく、それもマジックのコツをしっかりつかんでいるからと話す。
UGMのゲスト審査員に招かれた台湾のマジシャン呉何によると、蔡之棟のマジックはその独創性が際立っていて、しかもステージでの演技も安定していて素晴らしかったと話す。
今年4月、蔡之棟はニューヨーク州バッファローで開かれたF.F.F.F.公演に招かれた。これも大きな栄誉である。(蔡之棟提供)