無限の音源を開発する
「場所によって、異なる録音機材が必要になります」と言う。山と海とでは録音作業もまったく異なるのだ。
「いちばん好きなのは太平山で、自分の故郷のように思っています」太平山の中腹から頂までの一帯では三日三晩、録音し続けることができると言う。録音は中断できないこともあるが、多くの場合はまず録音して仕事場に戻って整理する。「それはデータバンクを構築するような作業で、必要となった時に、その音を活かすことができるのです」と言う。
「機材は以前よりずっと進歩しました」と言う通り、今は小さなパソコン一台で大量のデータを処理し保存することができる。「サウンド‧アートというのは小衆市場ですが、多くの人がシェアしてくれています」SNSやデジタル設備を通して、多くの人がサウンドの未来を探っている。
彭葉生の仕事場の空間は狭いが、必要なものはすべてそろい、不思議な音を出す手作りの楽器も陳列されている。手製のミキサーは小さいが性能は良く、思いのままにSFを感じさせる音を出すことができる。作業はいつも夜間に行なう。深夜の漆黒と静謐によって聴覚は研ぎ澄まされ、まるで無数の音波が脳と空間を行きかい、手を伸ばせばつかめそうに感じる。
音響効果は人の心を揺り動かす。ドラマのサウンドトラック制作はまさに実力を発揮する場だ。イノベーティブなドラマや舞踊、展覧会やビジュアルアートなどのクリエイターは、その情景に合う音を求めており、そうした人が彭葉生に依頼してくる。
「音は主体になり得るもので、文章や画面による説明は必要ありません」と言う。例えば、パントマイムは音がなくても人を笑わせる。「鳥の声を聞いた時、何を思うでしょう?」と言う通り、音だけで画面がなくても、人々は頭の中に物語を生み出せるのである。
「風の音だけをとっても、野外、都会、厳冬、盛夏など、環境によって姿を変えます」と言う。回看工作室では、教育やシェアを通して、人々にこうしたサウンド‧アートの深さを感じてほしいと願っている。風や雨の音、虫や鳥の声は耳を通って人の心の中に入り込み、共鳴する。人と宇宙の間には断ち切ることのできないアンテナがあり、私たちが環境に耳を傾ければ、心は本来の場所に戻り、落ち着くのである。
「回看工作室」が植物園で行なった「音を聴く」ワークショップ。
2010年の「聴見桃山」プロジェクトでは、タイヤル族に属するSkaru’集落の吟唱を記録した。
多様な音源を創り出すため、アトリエにはさまざまなミキサーがある。(林格立撮影)
サウンド・アーティストとして、彭葉生はさまざまな環境で集中力を維持しなければならない。(陳若軒撮影)