人工繁殖で生態を守る
柯心平が台湾大学昆虫学大学院を修了した頃、ちょうどゲームの「ムシキング」が大流行していた。台湾全土の昆虫ショップの数は80軒を超え、虫を飼う人も増加し、業者が屋外で捕獲する虫の数も大幅に増加していた。昆虫の飼育が得意だった柯心平はこの現象を目にして起業を決めた。大規模に人工繁殖して、捕獲による生態へのダメージを少しでも減らしたいと考えたのである。
「業者は野外で1日に100匹もクワガタを捕獲してきますが、人工繁殖の場合は、わずかな数を捕えてきて幼虫を一年かけて育てることになります」と言う。これにはコストがかかるが、昆虫の履歴もわかり、品質を確保し、また消費者にその虫の寿命を伝えることもできる。
昆虫の飼育で注意しなければならないのは、温度と餌の新鮮さ、容器の大きさ、干渉の程度などだ。「甲虫なら1ヶ月に一度餌を換えるだけで良く、毎日換えると、虫は自分が食べられるのではないかと驚いてしまいます」と言う。また、幼虫が大きいほど成虫も大きいものとなる。簡単なようだが、長年の経験と知識があるからこそ、ポイントがつかめるのである。
今までに飼育した珍しい品種について訊ねると、こう答えた。「ニジイロクワガタを見たことはありますか。光を反射して非常に美しいのです。本来はオーストラリア北部の熱帯雨林の丘の上にしか生息せず、標本さえ非常に稀で、1匹の価格が5~6万元もしました」だが、柯心平は親しい日本の学者から合法的な幼虫を入手することができ、細心の注意を払って育てたところ、大量の成虫を育てることに成功したのである。本来は高根の花だったニジイロクワガタが、おかげで初心者でも飼えるようになった。
もう一つは、ボリビア原産のサタンオオカブトだ。これも希少でワシントン条約の「絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約 CITES)」に掲載され規制されているが、柯心平による人工繁殖は研究に役立つとして制限を受けていない。