温かい微笑みの力
病室での苦痛と別れは避けることはできないため、ホスピタル・クラウンになるは演技力だけでなく、心の素養も必要で、楽観的でプラス思考のできる人でなければならない。
2015年初、沙丁龐客劇団が「赤い鼻のお医者さんプラン」を開始して役者を募集した時、企画担当の徐子桓はある応募者の答えが印象に残ったと言う。その人は、こういう話をしたのである。祖母が危篤だと知らされて慌てて病院に駆けつけた時のことだ。つらく悲しい病室の雰囲気を想像していたところ、家族や友人たちは皆、微笑みを浮かべて祖母の最期を見守っていた。悲しい状況でも皆が微笑んでい姿が今も忘れられないという。「暖かい微笑みの力こそ、ホスピタル・クラウン計画が目指すものです」と徐子桓は言う。
病室にあるのは悲しみだけではない。昨年10月、赤い鼻のお医者さんが台湾大学小児病棟に受け入れられた後、謝卉君とパートナーは新生児の病室を訪れ、生後2~3カ月の赤ちゃんのために音楽を奏でた。見守る家族はじっと子供を見つめており、その暖かいまなざしが忘れられない。
謝卉君は高校時代に演劇に夢中になり、台湾芸術大学演劇学大学院まで進んだ。十数年にわたって舞台に立ってきた彼女は、舞台では、役者は自分の演技の突破と成長だけを目指すが、ホスピタル・クラウンの場合は、演技はすべて他者のためにあると言う。
昨年から始まったホスピタル・クラウンは高く評価されているが、最も多くのものを得ているのはクラウンを演じる自分たちだと謝卉君は言う。病室では幼い子供たちが辛い思いをしながらも、懸命に生きようとしている。その強さを目の当たりにし、自分の小さな挫折や不満などは取るに足りないものだと気付かされる。
新しい年を迎えた今、この先に何が待っていようと、ホスピタル・クラウンが暖かい力をもたらすように、私たちもエネルギーに満ちた種をまき、前を向いて歩んでいきたいものだ。
じゃんけんぽん!俳優たちは汗まみれになって稽古する。(荘坤儒撮影)
じゃんけんぽん!俳優たちは汗まみれになって稽古する。(荘坤儒撮影)
赤い鼻をつけて変な顔をして見せるホスピタル・クラウン。
沙丁龐客劇団の俳優たちは劇場を抜け出し、平渓線の列車内や台湾大学病院小児病棟で人々を笑わせる。
沙丁龐客劇団の俳優たちは劇場を抜け出し、平渓線の列車内や台湾大学病院小児病棟で人々を笑わせる。
沙丁龐客劇団の劇団名は「ピエロ、大道芸人」という意味のフランス語Saltimbanqueに漢字を当てたものだ。街頭や広場など、いたるところが舞台となる。
脚本のない芝居。俳優たちは、周囲の物事を利用して即興の演技をする。
沙丁龐客劇団の最初の作品「世界の部屋に一人」からも、病院や生死といったテーマへの関心がうかがえる。
沙丁龐客劇団の最初の作品「世界の部屋に一人」からも、病院や生死といったテーマへの関心がうかがえる。