究極の刈包
台北の華西街夜市にある「源芳刈包」は1955年の創業で、すでに60年の歴史を持つ。ミシュランのビフグルマンでも評価される名店だ。店主の呉黄義は毎朝6時に市場に行って、その日に必要な豚肉を仕入れる。大釜に豚バラ肉を入れ、漢方の香辛料と砂糖と醤油で1時間余り煮込み、肉を一度取り出して冷ます。お客の入りを見て、その都度、必要な量の肉を小鍋にとって再び煮る。二度に分けて火を入れるのは、煮込みすぎて肉が崩れてしまうのを避けるためだという。だからこそ源芳刈包の豚肉は、皮の部分のぷりぷり感が残っているのである。
台北の公館エリアにある「藍家刈包」も3年連続してビフグルマンに紹介され、国賓晩餐会に料理を提供したり、CNNで報道されたこともある。オーナーの藍鳳栄にその料理の腕について聞いてみると「母から受け継ぎました」と答える。特別な秘訣などなく、台湾産の豚肉を使い、エシャロットやニンニクを油で炒めて香りを出し、そこへ肉を加えて炒め、それから黒砂糖と醤油を入れて4~5時間煮込むということだ。
現代人は健康に注意するようになり、多くの人が豚の脂身を好まなくなった。そこでお客からのアドバイスを受け、藍鳳栄はメニューを修正し、赤身肉多め、脂身多め、半々などを選べるようにした。また、肉に添える高菜漬けは客家のもの、ピーナッツ粉は創業百年の老舗のものを使っている。600グラム600元の香菜を使ったこともあり、物価が上がっても、材料で手を抜くことはない。台湾大学の学生街であることから、この店は一日に2000個の刈包を用意している。学生時代からの常連が今では教授になるなど、すでに多くの人にとって思い出の味となっている。
台南の永楽市場内にある「阿松割包」も少なくとも80年の歴史を持つ老舗だ。初代の林天旺は、福建省にいたころから食堂を開いており、台湾にわたってきてから、その料理を兄弟たちに教えた。2代目の林清松は彼から刈包のレシピを受け継ぎ、数十年にわたって店をやってきた。3代目の林晁輝は店を引き継いで十年になる。「阿松割包は、一番最初は蒸しパンに煮汁をかけて浸し、肉と別々に食べるものだったのですが、この地域の人々はそういう食べ方に慣れていなかったので、改良を重ね、今の肉を挟む形に変わりました」と林晁輝は言い、この店の刈包の具やトッピングが他とは違う理由を説明する。
彼らは毎日、午前1時から漢方薬で豚のタンや豚の頭肉を煮る。部位によって求める歯ざわりが違うので、鍋から引き上げる時間も異なる。「また、濃い醤油で煮込むわけではないので、食材の鮮度を保つのにも注意が必要です」と話す林晁輝は、作業の手を休めることなく、調理の過程を説明してくれる。肉類の処理が終わったら、無料で客に提供するスープを仕込むが、スープの種類は季節によって異なる。この店の割包のパンの部分は、マントウのような食感で、毎朝一つずつ切れ目を入れる。肉に添えるトッピングも他の店とは違う。高菜漬けはカラシナの根の部分を使うため、シャキシャキしている。このほかに大根の漬物も加えるのでさっぱりと食べられ、最後に特製のピーナッツ粉をかける。
「Love Bao Taiwanese Kitchen」という店を経営する羅維綱は30年余り台湾を離れていたが、2015年に帰国して基隆に刈包店を開いた。「廟口付近に店を開いたところ、外国人観光客に評判がよく、これなら海外にも市場があるかも知れないと思いました」と言う。そうして2017年、彼は拠点をアメリカに移し、2019年に開店、コロナ禍の影響もあったが、経営は続いている。
彼が店を開いたノースカロライナ州は華人の多い地域ではないが、台湾から来た刈包は地元でも好評を博している。西洋人なら豚肉よりチキンの方が好まれるのではないかと思いがちだが、「来客の10人中9人は、台湾の伝統の味の方を注文し、気に入っていただいています」と言う。
羅維綱が引き継いだのは義父のレシピだ。まず豚バラ肉を焼くことで余分な脂肪を取り除き、それで油っぽくならないようにしている。
呉黄義は「私たちは、ここでしか食べられない味を出しています」と言う。藍鳳栄は「家の味を守っています」と言い、林晁輝は「家業を守り続けられることに満足しています。この味と記憶を維持していきます」と語る。また羅維綱は「私の願いは、外国人に台湾の食べ物を通して台湾を知ってもらうことです」と言う。
これだけの人が、汗を流しながら厨房に立ち、「舌の記憶」を守り続け、「美食」で人と人とのつながりを生み出している。この味を好きにならずにいられるだろうか。
「阿松割包」は他とは違い、豚のタンを挟んでいる。これに店主が煮込んだスープを合わせるのが60年以上続いてきたおいしい食べ方だ。
刈包は世界的に流行し、若者が好む新しいテイストとなっている。写真はノースカロライナ州にある「Love Bao Taiwanese Kitchen」の刈包。(Love Bao Taiwanese Kitchen提供)
台湾は世界の華人圏の中でも刈包が最もおいしいエリアだ。
ピーナッツ粉、高菜漬け、香菜は刈包の定番のトッピングだが、店によってそこにも独自の秘訣があり、独特の味を出している。
刈包は中が見えるため、何を挟むか想像力と創意をかきたてると蔡珠児は言う。
刈包は台湾のストリートフードである。ミシュランのビフグルマンに選ばれた台北市公館エリアの「藍家割包」には行列ができる。