綻堂蒔光—御医旧宅に新しい生活美学
美術品に詳しい郭淑珍だが、コレクションの選択基準を訪ねると、拍子抜けするほど簡単に「気に入るかどうかです」と答えた。彼女のコレクションは3か所に分けて保管されていて、その一部は歴史博物館と共同開催の「石湾陶魂、廖洪標の陶塑像展」(2013)、「宜興紫砂壺と陶器の茶器名品特別展」(2016)において公開されたことがあるが、それ以外の美術品は錦の箱の中に眠ったままなのである。
迪化街に位置する綻堂蒔光を手に入れたのは、芸術を紹介できる自分の場を持ちたいと彼女が熱望したためだと、ご主人である郭木生文教基金会の事務長・劉文良は話す。郭木生文教基金会付属芸術センターは200坪の広さがあり、設立当時は多くの若い芸術家の連合展を企画してきたが、作品数が少ない若い芸術家にとっては、個展となると開催は難しい。そこで綻堂蒔光が、郭淑珍の願いをかなえる場となった。
2016年12月にオープンした綻堂蒔光は、連なった商家風の町屋の一角にあり、愛新覚羅溥儀の御医だった黄子正の旧宅であった。郭淑珍はその1階に、中庭を挟んで縦に並ぶ3部屋を、順にお洒落な生活雑貨、焙烙焙煎のコーヒー、ティールーム兼展示場にリノベーションして、台湾芸術家の不定期な展示を始めた。
去年12月には施継堯の壺と花器展を開催し、展示の花器には華道家を招いて華やかに瑞々しく花を生けてもらった。厳かな展示場は花で艶やかに彩られ、郭淑珍が抱く芸術を生活にという生活美学を具現化している。彼女は藍色の碗に水を張って見せてくれた。この碗は水を入れると、貫入が浮かび上がる。温度を変えて水を入れると、固まっていた藍の色が、層を成して浮き上がり、生命のない器物が呼吸しているかのようである。「施継堯の陶器は重金属を用いず、自然素材だけで出来ています。この茶碗の釉薬は花蓮産の玉石で作られていて、自然素材であるだけでなく発色も技巧も特別です」と郭淑珍は説明する。
入口付近に陳列されている台湾と日本の陶磁器は日常使いにもふさわしい。