国境を越えた人道援助
戦火からの復興のために、世界各国がカンボジアを援助しており、多数のNGOも進出している。台湾からも、台湾希望之芽協会、中華民国知風草協会、徳普文教協会、以立国際服務などの機関が長年にわたってカンボジアで人道支援活動を行なっている。また多くの人が旅を兼ねてボランティアとして活動している。
私たちは希望之芽協会の無料診療に同行した。プノンペンから車で3時間余りのプレイベン州Kanhchriech郡の小学校だ。希望之芽協会の創設者で歯科医の許毓丕は、2006年以来カンボジアで24回にわたって無料診療を行なってきた。
この無料診療は大規模なチームから成る。台湾の馬偕紀念病院は単独での活動を止め、玉山銀行カンボジア支店と希望之芽協会と協力して行なっている。まず現地の保健所に資料を求め、小児科、婦人科、歯科など必要な科を決め、超音波検査診断装置や大量の薬品を用意し、さらに救急医療の医師にも支援を頼む。手術室看護師も自費で参加している。
無料診療の現場では、歯科に長い行列ができる。カンボジアでは歯を一本抜くのに30米ドルもかかり、貧しい人々は痛みを我慢するか、伝統の薬草で痛みを止めるしかないからだ。
無料診療の3日間で、歯科医が抜歯する数は台湾での1か月分に相当する。教室の机や椅子を組み合わせた診察台で、ボランティアが子供を抑えると子供は泣きだすが、その時にはもう抜歯は終わっている。親知らずの抜歯が上手い大同歯科医の盧冠廷は3日で200本の歯を抜いた。「智歯が横向きに埋まっている場合、レントゲンも精密機器もないため、歯を砕いて取り出すしかありません」と盧冠廷は言う。
高校2年生のボランティア、張立哲は歯科アシスタントを務める。彼は、カンボジアの子供たちは非常に勇敢で、痛みに耐える力も強いと感じている。注射を打っても泣かない姿に彼の方が泣きたくなると言う。子供たちは歯を抜いてもらうと、合掌して頭を下げるのである。それに比べると、彼の12歳の弟は4人の大人に付き添われていても泣いて診察台に上がろうとしない。カンボジアの子供の多くが裸足なのを見た彼は、有名ブランドの靴じゃなくていい、靴さえあればいいと母親に言ったそうだ。
医師たちは3日で2000人余りの患者を診て疲労困憊した。胃腸の具合が悪いだけの患者も、症状がずっと続いて体調が悪く、無知と恐怖から自分は死ぬのではないかと思っている。それが診療を受けて消炎剤を飲むだけで治癒するため、医師も自分の能力が高まったように感じる。
無料診療で真に恩恵を受けるのはボランティアと医師たちなのである。
多くの医師は、カンボジアでの無料診療は、むしろストレス解消になると言う。医療資源の乏しい現地では、医師は患者たちから100パーセントの信頼を得ることができ、尊敬され必要とされていることを感じる。治療に限界はあるものの、医者を志した初心を思い出すことでき、帰国後も改めて自分の仕事に向き合うことができる。
ボランティアたちも、最初は湯がぬるい、ベッドが硬いなどと言っているが、奉仕の力を体験することで、台湾の恵まれた境遇に気付く。苦難の中に意義と救いを見出すことができれば、心は大きく羽ばたくことができるのである。
海外で働く台湾人同士が一堂に会する機会はなかなかない。年に3回の祝日に行なわれる聯誼会は、現地の台湾企業が交流する重要な場である。
カンボジア台湾商会(台湾商工会議所)の王美蕙会長は、就任するとすぐに会員企業を一社ずつ訪ね、台湾商会の関心を伝えている。
プノンペンにあるカンボジア台湾商会では、パスポートを遺失した台湾人旅行者に協力し、ベトナムの駐ホーチミン経済文化代表処に入国証手配を依頼している。
希望之芽協会が行なう無料診療。限られた設備しかない中で、医師は優れた医術を発揮する。
診察を終えてご褒美に飴をもらい、笑顔を見せる子供たち。