台湾人の楊右任と、カナダ人の妻、カーラ・レムリーは、この地域の子供の置かれた困難で危険な状況を知り、どうしても助けなければと感じた。そうして、台湾北部の桃園市に住むこの夫婦は、履かなくなった古靴の寄付を呼びかける「古靴で救命」プロジェクトを立ち上げる。このプロジェクトが台湾でまずますの反響を呼ぶだろうと二人は当初から期待していたが、人々の反響は彼らの想像をはるかに超えていた。2014年4月に楊右任がブログとフェイスブックで呼びかけると、なんと1万5000足の靴と7トンの衣類が集まり、40フィートコンテナ1個が満杯になった。
古靴で命を救う
「台湾の人と企業の温かさには、本当に驚きました。20フィートコンテナが一杯になるくらいの靴や衣類が集まれば上々ぐらいに考えていたのに、物資はどんどん寄せられ、たちまち我が家も教会も、兄の会社の倉庫も満杯になりました」と楊右任は言う。
楊右任がこのプロジェクトを思いついたのは、彼の岳父アレン・レムリーのおかげだ。トロント在住の建築技師で、牧師を務めたこともある。建築技師で得た収入を費やし、ケニアなどの貧困に悩む地域に診療所や教会、学校を建ててきた。そんな岳父と話すうち、楊右任はケニアのスナノミの害について知るようになった。「古靴で救命」がスタートした後、以前から立ち上げを計画していたNGOを彼は「Step 30」と名付けることにした(NGOは後に成立)。この名は、楊右任と妻のカーラが父の実践を見習い、30歳以下の若者にぜひ、そのような支援活動に参加してほしい、という希望をこめたものだ。
楊右任が昨年4月にネットで「古靴で救命」を呼びかけると、シェアが広がり、靴や衣類が次々と届いた。若き宣教師である楊右任は「物資の寄付に限らず、支援やボランティアの手配など、今やインターネットの力はとても大きく、驚いています」と言う。「最初は靴がたちまちあふれて、混乱状態をきたしそうだったので、整理や荷造り、運送を手伝ってくれるボランティアをすぐにネットで募りました。すると多くの人が手伝ってくれて、本当に感激しました」
昨年7月、最初の靴を、ケニア西部のキタレに送り届けた。エルゴン山とチェランガニ山地に挟まれた標高1900メートルの小さな農業の町だ。楊右任は昨年11月に初めてケニアを訪れた。現地の教会に託していた靴の配送状況を確認したかったのと、彼自身、現地の暮らしをもっと理解したかったからだ。
古靴のアフリカ遠征
「靴を送り出せば自分の任務は完了だと思っていました。ところが、現地で実際に人々の暮らしの貧しさを目の当たりにし、彼らの手助けをし続けなければ、と思ったのです」帰国後、彼はNGO「Step 30国際宣教事工(International Ministries)」を立ち上げ、自分たち夫婦とともに働いてくれる専任スタッフを募集した。
昨年、楊右任がまだプロジェクトを立ち上げていなかった頃、44歳の趙之鈺は、台北のとあるマーケティング会社でプロジェクト・マネージャとして働いていた。「このプロジェクトを聞いてすぐ、同僚から古靴を集めて回り、楊右任夫婦に連絡を取りました」と、趙之鈺は夫婦と知り合った時のことを振り返る。「そして彼らの善意や行動に心を打たれました。それで加わることにしたのです」
趙之鈺は同NGOの専任スタッフとなり、昨年11月には楊右任とともにケニアに赴いた。彼はその旅を「感動と鼓舞に満ち溢れた経験」と形容する。「現地の子供が人生で初めての靴を履いた時の喜びの表情に大きく心を動かされ、もっと多くのことをしたいと思いました」
帰国後、趙之鈺はマネージメント能力を生かしてStep 30のために募金活動を立ち上げ、社会的企業も設立した。「我々の目標は、クリエイティブな商品を設計製造し、その売上を、物資運送費や、スタッフ及びボランティアの教育に当て、また、新たな支援プロジェクトに発展させることです」現在、同NGOは「自分だけのオリジナル・ノート」といった文房具を、彼らのサイトで販売している。
趙之鈺と同じように、林美蕙もStep 30に加わる前は、前途洋々たる職業に就いていた。30歳余りで、台北にあるハイテク企業でコスト・エンジニアをしていたのだ。だが、彼女はその仕事に満足していたわけではなかった。仕事を辞めて、しばらくあちこち旅行した後、昨年、楊右任とカーラを手伝って組織の財務や募金業務を処理するようになり、今年5月からはフルタイムで働いている。「以前の私はワーカホリックで、いつも疲れていて楽しくなく、こんな毎日が今後30年続くのだろうかと自問するようになりました」と、林美蕙は当時を振り返る。「生き方を変えなければならないのは明らかでした。今の仕事をするようになって、人生の目標が見つかったと感じています」
林美蕙は、ボランティアたちをどうマネージングするかといった計画を組む仕事をしているが、多くの学生が働きにきていることに気づいた。楊右任によれば、台湾全土の25校から約1万人の若者が「古靴で救命」プロジェクトに加わり、自分の学校に寄付受付コーナーを設けたり、古靴の分類や荷造りを手伝ってくれている。
ボランティアで自分を変える
現在まででStep 30には約40万足の靴が集まり、そのうち半数がケニアに運ばれた。林美蕙は「大多数の台湾人は思いやりにあふれ、国内外で災害があれば惜しみなく寄付をします。慈善事業を立ち上げたり、ボランティアをしようという人を大きく増やせるようなプラットホームを作れればと思います」と言う。
楊右任夫婦の慈善活動に目を止めた人物の中に、ほかに周文欽がいる。台湾の金山地方で行われる伝統漁法を取材した『蹦火』で、2014年新北市ドキュメンタリー映画賞を受賞した監督だ。自分も古靴の寄付をと考え、いや、それよりNGOの活動の様子をドキュメンタリーにした方が、彼らの考えを広めるのに実質的な効果があるかもしれないと考え直した。
そこで周文欽は2014年11月から、このNGOの毎日の仕事の様子を記録し始めた。今年3月にはともにケニアに赴き、山奥の村までどのようにして物資を運んでいくのか、或いは、現地のスナノミ患者のケアや治療、児童のための授業の手配など、45日間にわたるボランティアたちの活動をフィルムに収めた。
同ドキュメンタリーは今年末までに編集等の作業を終え、劇場や国際フィルムフェスティバルで公開し、「アフリカの人々の置かれた苦しみ」について人々に知ってもらいたいと、周文欽は考える。「また、これを通して国際社会に台湾をより知ってもらえればと思います。台湾人が、異郷の人々の苦しみを救うために払っている努力について」と周文欽は言う。
楊右任はこうしている間にも、ケニア僻地への支援プロジェクトを次々と立てている。井戸掘り、技術指導、また、物資を運んだコンテナを教室に改造するという計画もある。「教育の力は、貧しさの状況を改善、解決すると我々は深く信じています。弱い立場にある子供に学習器材や学習の機会を提供することで、より素晴らしい未来が彼らに開けるようにと願うのです」と、楊右任は語る。
素晴らしい未来のために
これらの新たなプロジェクトを実施するには、むろんさらに多くの資金が必要だ。中古コンテナの改造にしても、購入及び改装費用に台湾元で15万近くかかる。この問題を解決するために、同NGOは新たに、台湾の大企業から寄付を募ることにした。すでに台湾最大の靴チェーンである阿痩皮鞋から資金及び物流面での支援を得ている。また阿痩皮鞋は、コンテナ改装費用や運送費用にと、今年5月に100万台湾元の寄付をし、同時に全国に100店近くある店舗で古靴回収の協力を行なってくれている。
「私たちが現在得ている成果はすべて、多くの企業や一般の人々が送ってくれた物、寄付金、費やしてくれた時間などのおかげです。これらのプロジェクトを立ち上げたことによって、台湾の若者が自主的に他者、とりわけアフリカのこれらの僻地に暮らす貧しい人々を助けるようになってくれればと願います。やろうという思いさえあれば、私たちは彼らの暮らしを変えることができるのですから」と楊右任は言う。
アフリカの原野には、まだ裸足の子供が大勢いて、寄生虫スナノミの侵入による命の危険にさらされている。楊右任の「古靴で救命」プロジェクトは、子供たちの健康を少しでも守ろうというものである。右は、楊右任が怪我をした子供の傷を洗う様子。
アフリカの原野には、まだ裸足の子供が大勢いて、寄生虫スナノミの侵入による命の危険にさらされている。楊右任の「古靴で救命」プロジェクトは、子供たちの健康を少しでも守ろうというものである。右は、楊右任が怪我をした子供の傷を洗う様子。
地面いっぱいの靴を前に、子供たちは笑顔を見せ、ボランティアのお母さんたちが、それぞれの足ににぴったりの靴を選んであげる。
現地の子供が靴を持っているとしても、こういう状況だ。「古靴で救命」プロジェクトは、アフリカの子供たちの足を守る。
楊右任は靴を寄付する機会を利用して、現地で「ゴミと靴を交換」というイベントを行なっている。大勢の子供たちが、拾い集めたたくさんのゴミを持ってきて靴と交換するので、環境改善にもつながる。
若い周文欽監督(右)は楊右任の行動に感動し、一緒にアフリカを訪れてその活動を映像に収めた。映像を通して、多くの人にこの活動に参加してほしいと考えている。
アフリカの子供たちが安全に暮らせるよう、楊右任は少しでも力になりたいと考えている。
現地では教育の環境も資源も十分ではない。楊右任は使わなくなったコンテナを教室に改造して授業環境を改善し、また井戸を掘って彼らの暮らしを変えたいと考える。
現地では教育の環境も資源も十分ではない。楊右任は使わなくなったコンテナを教室に改造して授業環境を改善し、また井戸を掘って彼らの暮らしを変えたいと考える。