エコ建築
大渓老茶廠は自然を取り入れた設計になっており、「当時すでにエコ建築の考えがあったことがわかります」と劉玲珠は言う。
茶の製造は当時すでに量産時代に入り、従来のように茶葉を日干しするわけにはいかず、工場の2階に萎凋スペースが作られ、1階は倉庫と製茶スペースとしていた。萎凋とは、摘み取った生葉の水分を蒸発させて柔らかくし、次の揉捻をやりやすくするための工程だ。熱上昇の原理を利用し、1階の乾燥機などが運転時に発する熱で、2階での萎凋が加速されるようにしたのだ。
また、2階の南北の壁にはベルトで動くファンが4台据えられ、東西の壁には90度に開く窓があり、季節に合わせて室内の熱気や湿気を調節できた。大渓老茶廠店長の万光久は、空気の流れの安定は茶葉の品質を安定させると言う。これらは自然の力を借りたエコロジカルな方法である。
揉捻では、茶葉の細胞組織を壊して中の成分を葉の表面に付着させる。こうすることで茶を飲む際、湯の中に成分が速やかに溶け出し、これが茶の味や香りのカギとなる。萎凋後の茶葉は2階の床にある穴に投入され、そのまま1階のジャクソン式揉捻機内に落ちて揉捻作業に入るよう工夫されている。
茶を保存する倉庫は1階の日の当たらない側に作られ、壁の上下に通風口が設けられている。そこからネズミやゴキブリが入ったりしないよう、穴にはネットと金網が取り付けられている。建物の各細部から、日本人建築家が現地の気候に合わせて自然を利用しようと工夫したことがわかる。
その後、台湾農林が経営を引き継いだが、産業衰退のため工場は閉鎖された。だが閉鎖後15年たった2010年、台湾農林は工場の修築を決める。劉玲珠は「台湾農林股份有限公司はTAIWAN TEA CORPORATIONという英語名ですから、台湾を背負ったような思いで、どうすればこの看板を再び掲げられるかと考えたのです」と言う。
2階には東西に面して広く窓が設けられ、通風によって熱を逃がしている。自然の力を利用するエコロジー設計である。