飛び出す絵本の無限の可能性
大学の広告学科を卒業した林宜蓁は、印刷工場で働いた経験があるため、紙材のマーケティングや印刷技術、ペーパーエンジニアリングなどを実務的に学んでおり、紙の芸術的可能性に多くの夢や期待を抱いていた。
一方の黄于瑄は学生時代を通しずっと美術学科だったことから、デザインやパッケージをやりたいと思っていた。大学院生の時にしばらく休学してマーケティングを行う会社に入り、客のニーズに合わせたデザイン企画などで、ユニークな発想を展開してきた。
つまり、二人合わせて紙を用いた産業の川上から川下までの経験を持つので、デザイン、制作、マーケティングとあらゆる分野で活躍できることを意味した。卒業後の就職活動でそれぞれ仕事が見つかったが、ペーパーアート・デザインを手掛ける会社は台湾には少なかった。そこで、青年起業プロジェクトからの資金を元手に起業することにしたのである。社名は「執作設計」、デザインから制作までを事業内容とした。
「統計を取ってみたことがあるのですが、台湾ではデザイン会社がある程度の規模になるまで通常10年以上かかります。もし卒業後まず就職し、5年後に起業して、それからまた10年もかかるのなら、私はすっかり年をとってアイディアも若い人に負けてしまうでしょう」と、主に顧客への提案を担当する黄于瑄は、もう一つの起業動機を語る。
彼女らの会社が受けた最初のケースは外資系企業からの依頼で、飛び出す絵本の制作だった。一般の印刷所ではこうしたデザインは取り扱わないので、あるデザイン事務所が彼女たちの研究に目を止め、推薦してくれたのだ。「仕事を受けてから、台湾には飛び出す絵本を作る人がとても少ないことを知りました。紙は手で貼らないといけないので、私たちは印刷所に2日間通い、どう貼っていくのかや、手作業の生産ラインの組み方などを教えました」と企画を受け持つ林宜蓁は言う。完成品200冊余りの制作で、最初のテスト期間には100冊近くの失敗作ができた。
「衰退の一途といった観のある産業ですが、デジタル・メディアと比べると、かえって読者は長い時間をかけて楽しんでいることがわかります。立体的かつ芸術的なデザインは、一種のアテンション・エコノミーと言え、商業モデルとなり得ます」と、林宜蓁は自信を持つ。10倍、20倍に拡大して空間に設置すれば、アートスペースとなって、鑑賞者はその中に身を置くことができる。また、ハイテクで仮想現実や拡張現実の世界を作り上げることも可能だ。「ペーパークラフトというと伝統産業のイメージがありますが、発展の可能性を多く秘めています。まだそこまで考える人は少ないですが」
大学院で飛び出す絵本をテーマに論文を書いたことをきっかけに、そこに台湾伝統の民間文化を取り入れて起業へと結び付けた。(左ページは執作設計提供)