母親の心で
農業はきつい労働で、人手不足が深刻だ。林珮汝は、大学で学んでいた二人の娘にも手伝わせた。最初は抵抗感のあった二人だったが、母親の苦労を見て見ぬふりはできず、二人とも故郷に戻ってきた。5年が過ぎ、今や一人は作業人員の配置、一人は注文・出荷を管理する。しかもトラクターやショベルカーも操作でき、農場で働く人々を感心させている。こうした娘の話をする林珮汝には、誇らしげな母親の喜びが浮かぶ。
農場で働く人々にも、家族同様に細かく世話をする。シングルマザーに働いてもらい、子供を畑に伴って働けるようにしている。「畑の作物が安全なら、子供がもぎとって食べても大丈夫です」そんな母親の心で、シングルマザーが一人で子供を育てる苦労を思いやる。
農場には、林珮汝が「学生さん」と呼ぶ若者たちがいる。林珮汝が「花蓮自強外役監獄」と協力して、農場で実習してもらっている受刑者たちのことだ。「『学生さん』と呼ぶのは、農業を学びながら、自己修練を学んでほしいからです」と言う。生態を保護し、健康な食材を提供する有機栽培では、「耕作は単純労働ではなく、公益にかない、幸せを生むものです」
畑仕事は重労働なので、経費で決められた弁当一つでは足りない。そこで、「学生さん」のお腹の足しにと、林珮汝はご飯とスープを別に用意する。そんな「母」の心が通じてか、最初は作業に身が入らないようだった若者も次第に真面目に働くようになる。刑期を終えて再び農場を訪れ、将来は農業をやりたいと語る若者もいるという。
有機農業の人材をさらに育てようと、林珮汝は学校などで講師も引き受け、自分の農場に実習生も受け入れる。
困難な道だったが、彼女は後悔していない。有機栽培は、土地、自分、消費者の保護になるからだと言う。また、創価学会池田大作会長の「一人の奮闘が波を起こし、新たなる歴史を開く」という言葉も引用する。林珮汝の起こす波で、さらに多くの人が彼女と道をともにするだろう。
林珮汝は夫とともに絶えず農耕設備を改良して農場の生産効率を高めている。(林珮汝提供)
農業の人材を育成するため、伍佰戸農場では多くの子供たちの姿も見られる。
林珮汝は、これからも女性特有の優しい心で有機農業を続けていく。