私がダイビングを始めたのは、2014年、台湾の離島である蘭嶼での撮影プロジェクトがきっかけだった。蘭嶼に暮らす先住民族、タオの人々の漁労文化をとらえるために、酸素ボンベなどの呼吸器材を使わずに潜るフリー・ダイビングを習ったのである。この撮影プロジェクトが一段落すると私は蘭嶼を後にしたが、あの群青色の海から離れることはできなかった。
写真家にとって、光と影の追求は天性とも言えるものであり、未知の世界の探索が活動への大きな原動力となる。光と影を追い求めるためには、夜の漆黒の海に潜ることもいとわない。水温マイナス2℃の流氷の海の潜ることもあれば、また、人が一人しか通り抜けられないような海底の岩穴をくぐり抜けたりもする。
息を大きく吸い込んだだけで潜れるわずかな時間だが、それで水深30メートルまで達することができるとは思いもしなかった。時にはイルカとアイコンタクトをしながら一緒に泳ぐこともある。さらに思いがけないことに、「水」を隔てるか「空気」を隔てるかで、写真にはまったく異なる世界が生まれるのである。
フリー・ダイビングで潜る時間は一回約90秒と、ごくわずかな時間のように思えるが、下へ下へと進んでいくと、有限の世界が無限へと広がっていき、広大な海での喜びに満ちた探索が続けられるのである。