まず、お客様の年齢や社会的地位や好みを考慮して、食の場を選択する。高級レストランから郊外や路地裏の庶民的な店まであり、伝統料理も創作料理もそれぞれに台湾特有の食文化を伝えてくれる。

ナス、豆腐、トマトなど、ごくありふれた食材だが、2011年の台北美食展のコンクールで優勝したメニューである。左の写真は宜蘭県の「麟手創」、地元の食材を活かして世界に通用する料理を作っている。

美食家の胡天蘭が一番に挙げるレストランは、台北市長安東路にある「茂園」だ。

茂園は1971年の開業、すでに40年の歴史を持ち、三代目が継いでいる。古き良き時代の懐かしい味が評判だ。白菜滷（白菜の煮物）、白斬鶏（蒸し鶏）、黒豚の腸詰など、どれも本格的な台湾料理だ。胡天蘭が忘れられないのは鹹冬瓜蒸魚（塩漬けの冬瓜と魚の蒸し物）と花菜乾炒木耳（干しカリフラワーとキクラゲの炒め物）だ。

「これは台湾料理伝統の調理方法です」と胡天蘭は言う。カリフラワーを天日干しにしてから炒めると、独特の風味があり外国でも干した野菜はよく食べるので、外国人の口にも合うという。

ナス、豆腐、トマトなど、ごくありふれた食材だが、2011年の台北美食展のコンクールで優勝したメニューである。左の写真は宜蘭県の「麟手創」、地元の食材を活かして世界に通用する料理を作っている。

自ら料理もする美食家の梁幼祥は、外国人を招待する時には料理と景色を考慮する。

台北市信義区にある「101食芸軒」や「頂鮮101」では本格的な台湾料理やシーフードが食べられる上、都会らしい洗練された雰囲気もあって、面子も立つという。

台湾料理のトップブランドであるレストラン欣葉は、4年前に「食芸軒」の名で台北101の85階に出店し、台湾料理の名を大いに高めた。

欣葉エグゼクティブ･ディレクターの李鴻鈞によると、食芸軒では台湾料理を西洋料理のようなコースで提供している。もし、昔ながらの雰囲気で豪勢に台湾料理を楽しみたいなら、台北市中山北路の旧店に行くとよい。ここのメニューは120品もあり、焼きビーフン、カラスミ、スッポンと鶏と豚の内臓のスープ、金銭蝦餅、麻油鶏（ゴマ油風味の鶏スープ）、鶏腎臓の炒め物といった伝統の酒家料理から、一般的な白斬鶏、三杯鶏、トコブシ炒め、豚の角煮、菜脯蛋などまで、あらゆる料理が揃っている。

「台湾料理は豪華で手の込んだものではなく、台湾人のように素朴で飾らない、素材の味を活かしたものです」と言う。

本格的な台湾料理を堪能した後、梁幼祥はお客を近郊の木柵猫空の土鶏城（地鶏料理の店）に案内する。

土鶏城では庶民的な雰囲気が楽しめ、山で放し飼いにした地鶏と古漬け大根のスープや茶油を合えた素麺などの庶民の味を堪能できる。近くには台北近郊の茶畑があり、木柵の鉄観音茶を味わうこともできる。

台北市長安東路の「茂園」は、美食家･胡天蘭が外国からのお客様をもてなす時のイチオシの店だ。海外に暮らす台湾人の多くも、帰国するとここを訪れる。

開平餐飲学校創設者の夏惠汶も台北101の欣葉の台湾料理を高く評価する。「場所も料金も高く、料理の質も高く、お客様を招待する時には面子が保てます」と言う。

夏惠汶がこの他に推薦するのは台北市永康街の「老張牛肉麺」と「鼎泰豊」だ。鼎泰豊の有名な18本のひだが入った小龍包は台湾のオリジナルではないが、中国からシンガポールに伝わった海南鶏飯やポルトガル人がマカオに持ち込んだエッグタルトと同様、小龍包は台湾の鼎泰豊によって極みまで発展した。今では台湾グルメのトレードマークとなり、7年前に小龍包の故郷である大陸に進出したのである。

ナス、豆腐、トマトなど、ごくありふれた食材だが、2011年の台北美食展のコンクールで優勝したメニューである。左の写真は宜蘭県の「麟手創」、地元の食材を活かして世界に通用する料理を作っている。

外国からの来賓を接待することが多いグルメ旅行ライターの葉怡蘭は、台湾のグルメマップの多様さを語る。

まず紹介するのは伝統的台湾料理、例えば台北のレストラン「明福」（中山北路二段、開業から33年）や「金蓬莱」（天母東路、北投の酒家料理の伝統を受け継ぐ）だ。一品仏跳牆やトコブシのサラダ、もち米と地鶏のスープ、排骨酥、五柳枝などの本格的な台湾料理が味わえる。台南の「阿霞飯店」は伝統的な辦卓菜（屋外での宴会に供される料理）の店で、六色拼盤、カラスミ、蝦棗、蟹団子、花跳魚湯など、彼女が子供の頃に宴会で食べた料理とまったく同じものが出てくるという。

一方、西洋料理や日本食、台湾料理を基礎に新しい創作料理を生み出している店としては、台北安和路の裏通りにある「阿正厨坊」を挙げる。

もちろん、庶民の食を代表する台南小吃やタピオカ入りミルクティーも忘れてはならない。

葉怡蘭は最後にカフェに案内する。「台湾のカフェとコーヒーの質の高さには、多くの外国人も驚きます」と言う。台湾料理を初めて食べる外国人には、その良し悪しは判別できないかもしれないが、慣れ親しんだコーヒーを味わえば、台湾の食文化の基礎の確かさと厚みがすぐに分かるのである。

山林レストランの先駆けとなった「食養山房」は、幾度か場所を移しているが、風景を食に取り入れるという理念は変わっていない。

風味豊かな伝統的台湾料理の他に、最近は創作料理が注目されている。

作家の焦桐は著書『台湾味道』の中で、外国の友人が訪ねてくるたびに「食養山房」へ新しい宜蘭料理を食べに行くと述べている。

焦桐が特に推薦するのは、同店が独自に開発した前菜の「山泉豆腐」だ。「清純、純白で繊細、しっとりとして滑らかで、ほんの少しの抹茶と醤油で味わうと、清らかで淡い美味が食へといざなう」と言う。

食養山房は台湾の庭園式レストランの元祖だ。北宜公路に開店した後、新店、陽明山、汐止へと移転してきたが、変わらないのは借景の心である。周囲の山々や雲や林を食の環境としてとらえ、それらが客の心を落ち着かせ、料理の味を引き立ててくれる。一人ひとりのために繊細に盛り付けた懐石料理のような形式も、伝統の台湾料理では見られないものだ。

このように一人分の器に美しく盛り付ける形を採るレストランは増えているが、周囲の景観まで考慮する店は少ない。

宜蘭の「麟手創」は総料理長の邱清沢が率いるチームが2011年の台湾美食展の世界料理コンクールで優勝した。邱清沢によると、名シェフの陳兆麟が経営する「渡小月」と違い、創作料理の「麟手創」のお客は地元より余所の土地から来た人の方が多く、外国人も多いと言う。

梅とサツマイモ、苦瓜、XO醤で人生の酸い、甘い、苦い、辛いを表現した前菜、大根の古漬けと鶏のスープ、イセエビの糕渣（スープに片栗粉などを入れて固めて揚げたもの）など、地元の食材を用いた創作料理が次々と登場する。一番の人気は、シラスとカニ肉と鶏スープの粥だ。おいしくて満腹になるコースは1200元、チャンピオンコースは1人3000元だ。

「食養山房」では盛り付けにも風景を取り入れ、味を一層引き立てている。写真は冷たい果実酢。

「食は目や耳ではなく、やはり口で味わうものです」と話す朱振藩は、盛り付けより、料理そのものに手をかけるべきだと考える。創作にも実力が伴わなければならず、奇をてらうばかりではいけない。彼にとっては、どんなに豪華で上品な宴席より、裏通りの家庭料理の方が美味しいことが多いと言う。

北宋の范仲淹も「家常菜はうまい」と述べており、朱振藩は家庭料理は食べ飽きることがないと言う。彼が推薦するのは新北市永和区の自宅に近い「阿生小吃」だ。オーナーの阿生はもとはホテルのシェフで、料理の腕は言うまでもない。「油葱鶏、アサリ炒め、紅糟肉、薄切り肉のオイスターソース炒め、葉ニンニクと肉の炒め物、ヘチマ炒め、魚香茄子、家常豆腐など、当たり前の料理がどれも美味しいんです」と言う。

豪華で華麗な料理を好む人もいれば、家庭的な総菜を好む人もいる。どんな要求も満たしてくれる台湾は、やはり食の天国と言えるだろう。