思考を経た服装の選択
「紳士服は、世界と向き合う一枚の名刺のようなもの」と石煌傑は言う。人の外見は雄弁にさまざまな情報を伝える。彼は決して皆にスーツを着るよう要求しているわけではない。重要なのは「思考を経た選択」ということだ。どのようなスタイルで世界と向き合うかを考えて選択することが重要だと考える。
「紳士服をオーダーするというのは『自らに問いかける』プロセスです。自分はどんな人で、どのような環境にあり、どのような生活をしているのか、と」オーダーメイドの世界で、消費者は「自分で決める」ことに慣れなければならず、それには自分を理解することが必要となる。
「私たちは、これらのことをほとんど考えていません」と石煌傑は指摘する。35~65歳の世代は、学校では厳しい校則に縛られ、社会に出てからも、練習と選択に慣れておらず、世の中に手本も見当たらない。そのため世代全体が服装に特別な意識を持っていないのである。しかし、この世代は購買力はある。この点こそオーダースーツ市場の最大の契機であり、石煌傑は「この世代を揺り動かす必要がある」と考えている。
石煌傑が設立した「高梧集」では、消費者に多くの選択肢を提供している。「高梧集」というのは『儒林外史』の「鳳は高梧に止り、虫は小樹に吟う」から取ったものだ。「鳳」は雄の鳥、百鳥の王であり、「梧桐」の神木にのみ棲む。したがって「高梧集」は「男性にとっての上級セレクトの集合」という意味を持つ。
「高梧集」のセレクトは過度に華美ではなく、合理的なスタイルを貫くというものだ。石煌傑は、スーツにサスペンダーの使用を勧める。サスペンダーを使ってこそパンツの位置を綺麗に固定することができるからだ。スーツ姿のマナーとしては、脛の肌が見えてはならないというものがあり、靴下の長さが重要になる。この点でハイソックスならひざ下で固定されるので、ずり落ちることはない。店内ではサイズ分けされた靴下しか扱っていない。それは靴下の薄さが確保されて靴のフィットに影響を及ぼさないからだ。フリーサイズの靴下では伸縮性を持たせるため厚めの生地が使われているのだ。これは過度のこだわりではなく、合理的な標準なのである。
石煌傑は紳士服に対する消費者のイメージを刺激するだけでなく、製作側の革新も進めている。外国では、仕立て職人が優雅に働き、豊富な知識を持つ店員が専門的なアドバイスを提供するという、テーラーメイドの美しいイメージがあるが、台湾ではこうした光景が見られなくなった。「高梧集」ではスーツ一着の受注から完成までに2ヶ月をかける。その間に2回の仮縫い試着があり、店としては顧客のために急いで製作することはない。これは外国のテーラーメイドのプロセスに近く、合理的な作業状態と言える。これによって、この産業に参入する後進が将来にビジョンを持てるようにしたいと言う。
生地をコレクションしている范楼達は、あざやかな生地を選択肢として提案し、若い世代に好まれている。