マーケットとテーマ
だが、テーマが台湾に限られることで幅が狭まり、海外に出ていけないのではないかと心配する声もある。
王童も、最近は台湾にこだわり過ぎる傾向が見られると指摘する。「映画はおもしろくなければ売れませんが、観客に媚び、売上ばかり考えると、かつての模倣の時代に戻ってしまいます」と警告する。
「映画は海外へ出ていくべきで、テーマは普遍的であるべきです」と言う朱延平は、台湾には「大作」が必要だと考える。大作というのは巨額の製作費を指すのではなく、広く共鳴を得られる作品だと言う。
評論家の麦若愚は、台湾の主な観客層の視野が限られていて、それが台湾映画の発展に影響することを心配する。アイドルドラマを見て育った若い世代は、香港映画や中国大陸映画を見たこともないのだ。
台湾の国内市場は小さく、それをどう広げるかは大きな課題だ。台湾映画は中国語市場全体に目を向ける必要がある。
聞天祥は、台湾映画は2011年に復活を告げたが、市場規模を拡大するために中国大陸のマーケットが必要だと考える。
だが、中国大陸は台湾映画の市場になるのだろうか。香港映画の経験が参考になる。
陳儒修によると、2003年、中国と香港がCEPA(経済貿易緊密化協定)を結んだ後、共同制作の映画が激増した。昨年製作された香港映画は70数本だが、そのうち50本以上が大陸と共同制作の時代物だ。だが、時代物は香港では人気がなく、香港人が好むマフィア、ホラー、同性愛、コメディなどは、中国大陸側の審査を通りにくい。その結果、香港の観客はハリウッド映画に流れてしまった。
台湾では、香港ほど大陸との共同制作は盛んではないが、ECFA(両岸経済協力枠組協定)が台湾映画の将来を変える可能性もある。これまで台湾映画が大陸で上映されるには、世界各国の作品と競争して年に30本の外国映画枠(年間50本、うち20本は米国映画)に選ばれなければならなかった。2010年10月からは、映画はECFAのリストに入り、台湾映画の大陸上映にはこの制限がなくなったのである。しかし、このルートで初めて大陸上映を果たした『鶏排英雄』の売上は惨憺たるものだった。その原因は、文化的な隔たりにあるとされている。陳儒修は、私たちには笑える台湾語の台詞も、「翻訳」を通すと大陸の人々には分からないと言う。これから大陸で上映される『セデック・バレ』の成績は注目に値する。
陳儒修によると、台湾の監督たちは、今は台湾らしさを発揮して地元で支持されているが、これからは共同制作が主流になるはずだという。
鈕承澤の『LOVE』は、両岸共同制作の典型的な例である。両岸の共同出資、脚本も台湾と大陸から一人ずつが担当し、両岸のスターが共演し、両岸で上映された。
2008年の『海角七号/君想う、国境の南』が台湾映画復興の第一波となった。