茶酒を国酒に
「手本を示す」とは最高レベルを見せるということだ。コーリャン酒を主力商品とする賀木堂で、彼らは公務員時代には果たせなかった「職人の夢」を叶えようとした。ブランドイメージは重厚だが、活力も失わない。コーリャン酒に台湾の農産物を組み合せたフレーバーが主体で、台湾の物産の豊かさと職人の創意を示す。原材料の調達では、公売局時代にあった法的制限がなくなり、高品位のものを選べるし、トレーサビリティも容易になった。最も重要な製造工程では、麹造り、発酵、蒸留の温度や圧力、速度から、スタッフに対する訓練や要求事項まで、あらゆる細部を可能な限り管理する。
賀木堂のコーリャン酒は、酒類に一般的な液体発酵によるものではなく、原料に麹をかけて固形のまま発酵させた後、好ましくない成分を一つ一つ取り除くという中国の蒸留酒の伝統的な製造方法で作られ、多くの微生物による豊かな香り、芳醇で複雑な味わいを持つ。コーリャン酒によくあるメタノールやエステル類の酒臭さもない。突如出現したかのような商品だが実は「復刻版」だった。「1950~60年代に指揮官たちが飲んでいたコーリャン酒がこの味です」と鄭世津さんは誇らしげに言う。そして賀木堂の酒はこれをベースに、34種のフレーバーを開発した。そのうち茶酒の「最陸羽」シリーズが最も人気で、高山茶酒、ウーロン茶酒、アッサム茶酒などがある。
もっとも、茶と酒の出会いは今に始まったことではない。蘇軾が1000年も前に「茶酒は新芽を摘んで醸し、自然に発酵させて蒸留すれば、その液は無色で茶の香りが自ずと溢れる」と書いている。だが茶と酒の組み合わせは、時代とともに進化し、成熟してきた。今日では、適量の茶葉をベースとなる酒に浸す方法(インフュージョン)で簡易版の茶酒を作るバーテンダーもいる。だが茶は酸化するので長期保存には適さず、すぐに飲まなければならない。王偉勲さんのやり方は、磁気撹拌機を使って、サイフォン式コーヒーのように茶葉をろ過して高濃度の「茶エッセンス」を作るもので、ほかのフレーバーも加えて酒とブレンドする。
水のように透明な賀木堂の茶酒は、最も技術が要求される。製造工程で起こり得る変数を把握して調整し、科学機器の助けを借りて茶葉とコーリャン酒をともに蒸留する。出来上がった透明な茶酒は茶なのか酒なのか判別し難いとはいえ、酒の香りの中にほのかな茶の香りが確かに感じられ、しかも「百年腐らない」という。
「茶酒は最も台湾を代表できる酒です」と蔡木霖さんは言う。華人の酒造文化と台湾独自の物産を継承しているからだ。酒の包容力と茶の独自性を生かし、異なる領域、異なる世代のプロたちが、台湾を代表する一滴を作り出している。
賀木堂の創設者のうち、鄭世津さん(左)と蔡木霖さん(右)。
この道30年の王偉勲さん(左)は、勘や経験を科学的にデータ化するために実験室を作った。